「智樹…?」

 琢己の絞るような声が聞こえる。
 そして叫ぶ。

「救急車だ! 竜! 救急車を呼べ!目の前に電話ボックスがある!」

 竜と思われる足音が聞こえる。

 美利はずっと体をこわばらせて動かない。
 琢己が近付いてきてしっかりと肩を抱いた。

 それでも美利は微動だにしない。

 智樹を見ることもなく、琢己を見ることもなく、ただ智樹が居た場所だけを見つめていた。



 ようやく到着した救急車の中に乗り込んだのは和巳と竜。

 美利は琢己に家まで送ってもらった。

 その日は一睡もできなかった。