その日は朝から美利の気が優れなかった。
何だか嫌な予感がしてならなかったのだ。
コーヒーと紅茶でくつろいでから店を出た時のこと。
「智樹、靴紐ほどけてる」
竜の言葉を聞いて下を向いた智樹はそのまましゃがみ込み靴ひもを結び始めた。
そんなどこでも見かける普通の光景だった。
智樹が靴ひもを結んでいる間の四人は変わらず他愛もない会話をしている。
智樹がしゃがみ込んでいたのは歩道の少し道路側。
他の四人は歩道の真ん中と内側にまばらに立っている。
美利の立っていた場所から智樹を見ると右側に和巳が居て後ろにゆるくカーブした道路が見えるが、そこを走ってくるトラックが一瞬揺れた気がした。
「智樹…」
智樹はもう靴ひもを結び終わるところだ。
季節は冬。狭い道路。凍結の恐れ。緩いカーブ。
「智樹少し内側に移動して」
美利が声を掛けた時にトラックは横を通り過ぎて行った。
風圧で目をつむる。