「智樹くーん、これあげるね」

 最近授業の合間の休み時間にそんな声を聞く機会が多くなった。

「あぁ、うん。ありがとう」


 『これ』と言うのはクッキーだったりマフィンだったり色々だったが、智樹はそれを一応受け取る。

 クラスの男子に配り歩いて自分では食べないのだ。

 折角貰ったものだし、たまには食べればいいだろうに、と美利は思いながらそれを眺める。

 最近智樹に近づく女子が増えてきた。

 バスケ部で活躍し始めてきたとか、もともと中性的な部分も垣間見える顔立ちで華奢に見えながらもしっかりと筋肉の付いた体躯。

 高体連で人気に火が付いたのか、そこで目をつけた人がいたのか、徐々に彼に注目する女子が増えてきたようだ。

 春休みの期間中にどこかの女子グループが計画を立てたのか、三学期が始まって少ししてから二、三人の女子が固まって声をかけるようになり、三日に一回、二日に一回、今ではほぼ毎日名前を呼ばれている智樹。

 そろそろ面倒くさい感情が顔に出てきている。