「なんだよその苦笑いは。俺の真似でもしてるのか?」
「あはは、苦笑いを真似するってなんだよ。智樹の苦笑いは演技かよ」
そう言って二人で少し笑った。
「智樹は誰? うちの生徒じゃないでしょ?」
美利は恐らくそうだろうとカマをかけてみた。
バス停に横付けする学生専用バスを見ながら『俺は別に…』と歯切れの悪い智樹。
それでもバスの中で耐え切れなくなったのか智樹は話し始めた。
「毎朝バスで学校に来る前に電車に乗ってるんだけどさ。同じ時間の同じ電車に乗ってる東洋校の生徒」
少し恥ずかしそうに言葉を続ける。
「これから乗って帰る電車でも一度だけ見かけたんだよ」
照れ隠しをするように苦笑いをする智樹。
それでも少し火照った頬は落ち着いてくれないようで、『もうすぐ高体連だな』なんて無理やり話題を変えてきた。
その後は美利も無理に詮索することは無くそのままの流れに沿って二人の会話は続いていった。
高体連の結果は男女ともに地区大会は優勝、全国大会は男子と女子が四位と六位でなかなかの数字だった。
時は着々と過ぎていく。