部活へ行く準備も整え終えそうな時、和巳が再度口を開いた。
「だよなぁ、付き合ってねぇよな」

 その意味深な言葉に美利と智樹はなぜだと質問をする。

 椅子にきちんと座り直した和巳は改めて喋り始める。

「いや、クラスの女子が言ってたんだよな。お前らが付き合ってるんじゃないかって。
 一か月くらい前からだったと思うけど。
 でもお前ら全然そんな感じしないし。仲がいいのは凄くわかるけどな」

 一呼吸おいて続ける。

「なぁ、付き合おうとか思わねぇの?」

「あるわけないじゃん、ねぇ智樹」
「あぁ、全然」

 間髪入れずに返事を返した二人と動揺のどの字もないような口調に驚くより呆れる和巳。

 実際に美利は智樹に恋愛感情は抱いていない。はっきりとした理由もある。

 自分が人を好きになることは無いと思っていたため自分の感情にいまいち自信がないが『一緒にいたい』と思う、そんな感情を抱く人がいたのだ。

「くー、準備できたなら部活行くぞ。まだ時間はあるけど俺たち一年だし早めに行かないと」

 自分のカバンを背負って教室から出ようとしている智樹の声に美利も少し慌てた様子でカバンを持つ。

「そうだね、行かないと。和巳たちも遅れないようにするんだぞ」
「あぁ、サンキュ」

 そのまま放課後のざわめきの中へ二人は溶け込んでいった。