「あれ栗岡先輩じゃない? ほらあそこ歩いてるの。一緒に居るの彼氏かなあ?」
「栗岡先輩すごく綺麗になったよね」
「あの男の人、いつも一緒にいたバスケ部の先輩じゃない?」
「智樹、早く!」
「ちょっと待ってくれよ、まだ本調子じゃないんだから」
「だって久しぶりなんだからさ。一年振りだよ」
体育館の壁とフェンスの間を通って少しだけ芽吹いた葉を付けた、まだ茶色の目立つ枝の下を行くと広い裏庭に出る。
大きな木は相変わらずそこにそびえ立っていた。
葉の落ちた枝の隙間から見える少し雲の多い空を美利は眺めていた。
その横を通って大きな木の小さな穴を覗き込む智樹。
「手紙が入ってる。後輩の中の誰かもここの存在を見つけたかな? ちょっと拝見しよう」
「止めておきなよ、大事な手紙かもしれないよ」
手のひらほどの手紙を広げると智樹が中身を読み上げ始める。
「えっと、『智樹へ』」
それを聞いて急いで穴の元へと美利が走ってきた。