「僕のことを初めましてって最初に思ったんだよ! 彼女だって言っても分かっていなかった! 適当なこと言わないでよ!」
『不安なのは分かる。でも絶対に待ってる。俺がそう思うし、智樹のお母さんもそう言っていたんだから待ってるに違いないんだ』
美利が不安になるくらいだ。
智樹の母親の不安や恐怖も相当なものだろう。
記憶が戻らなかったらどうしよう、何か障害が起こったらどうしよう。
変化が起こった時に備えてすぐに病院に駆けつける準備もしていることだろう。
近いうちに記憶を取り戻すだろうと言われてはいるものの、それがいつなのかなど誰にもわからないのだ。
美利にも分かっていた。
何度も会って記憶を呼び起こす機会を増やすべきだと。
「ごめん、今日はもう寝るよ」
時間は夕方の四時過ぎ。
明らかに嘘をついているのが分かる。
『分かった、ゆっくり休めよ』
そしてそれに気付かないふりをして電話を切る和巳。
その後彼女は少しだけ泣いた。