「本当はまだ美利には伝えたくなかったんだ。竜が美利の部屋に居るって知らなかったから」
「『覚えてないらしい』ってどういう意味?」

 和巳は諦めたようにひとつため息をついた。
 美利の両手を握る。しっかりと。

「落ち着いて聞けよ、記憶が飛んでいる。俺たち四人のことを覚えていないんだ」

 膝から崩れ落ちそうになる美利を和巳が抱きとめる。
 廊下に置いてあるソファにゆっくりと座らせた。

 後ろで琢己も床に座り込んでいる。

「落ち着いて考えるんだ、会うか?」



「いつ…いつ戻るの?」

「長いかもしれないし、短いかもしれない。脳への損傷は大きくはないらしいから回復する可能性は高いそうだよ」
 そう言いながら美利の隣に座る和巳。

 無言で和巳に抱き着く美利。
 優しく背中を撫でる和巳。



 何分ほどその状態でいただろうか。
 気付けば反対側には竜が座っていた。
 琢己も近くに座っている。

「僕、智樹に会うよ」

 そう言って美利は姿勢を正した。

「わかった。智樹のお母さんに話をしてくるからちょっと待ってて」

 不安そうに作った握りこぶしを竜が優しく握ってくれる。

 手を繋いで和巳が戻ってくるのを待った。