窓に手をかけ最大までそれを開くと同時に舞い込んでくる春の柔らかい風。
それに逆らうように彼女は胸から上を窓の外に突き出した。
「こっちのほうが海は広く見えるけど、今度はフェンスが邪魔になってくるな…」
そんな美利の言葉に軽く『そうか?』と返事を返した智樹はやっと用件を伝える。
「くー、部活どうするんだ?」
それを聞いて体育館に行く途中だったことを思い出す美利。
そして足を階段に向けて再び歩き出す。
「僕? 僕はバスケ部に入るつもりだよ」
所々すべり止めが剝がれかけている階段を下りながら迷いのない口調で返事をした。
「バスケ部、キツイって噂だぜ?」
体を酷使することを苦と思わない彼女は、
「僕、バスケ好きだし」
と、一言で返した。
「俺も体力つけるのにバスケ部に入ろうかなー」
階段を下り切ってすぐを右に曲がり、短い廊下を歩きながら言う智樹の言葉に適当な返事を返しながら、目の前に現れた自分よりもはるかに大きな重たいドアを美利は力を込めて横にずらす。
もわっとした熱気と共に緊張した空気が廊下へと流れ出た。