「えっと……。戸良中学から来ました、栗岡美利です。

 背はちっちゃいけど態度はでかいです。
 よろしく」



 小さく小鳥が囀るような春の季節。

 入学式を終え教室に戻り、教壇の上に上がっていた美利は緊張しながらも落ち着きの持った声で自己紹介を終え、自分の席へ戻っていく。

 D組と書かれた教室の窓際、一番後ろ。

 彼女はそこでゆっくりと残りの時間を過ごそうとしていた。


 知り合いは居ない。

 美利の入学したこの高校はそこそこの名門校であり、ここに推薦入学した彼女以外には同じ中学からの入学生はいなかった。


 もともと一匹狼の素質も持っていた美利はそんなことは微塵にも気にしていなかったが、高校生になったことだしせめて一人くらいは友達を作ってもいいかなと思っていた。


 次々と生徒が教壇に上がり自己紹介が続く中、教室の窓の外ではまだ緑の葉がついていない茶色い身体を丸出しにした、古ぼけた木が風に揺れて小さく震えていた。


 北国の春風はまだ冷たい。


 天気も良く、青々とした空の天井には雲一つなく、綺麗な幻影のようにその空の奥にはのんびりとそびえたつ山々。

 茶色い古ぼけた木は一本だけではなく学校の周りに何本も植えられているようだ。

 そういえばこの学校は緑が多いと担任が言っていたなと何気なく思う。