これを拾ったときにイメージしたことを、今からやるのだ。


自分の人生を変えるために、この家をすべて燃やし尽くしてしまえ。


そうすれば自分は自由になれる。


両親が死んで施設に入ることになったとしても、少なくてもコンビニくらいは自分の意思でいけるようになるのだ。


クルミは舌なめずりをして拾ったライターを見つめた。


普段は踏みつけて歩くそれが、今はクルミにとって唯一の救世主だった。


火をつけようとして、ふと、ライターを持つのは自分の人生で初めてだと思い至った。


ライターだけではない。


他にも普通の高校生が当たり前に触れたことがありそうなものを、クルミはまだこの手に触れたことすらないのだ。


そう思うと悲しさと同時に怒りが沸いてくるのを感じた。


自分をこんな風にしたのは誰のせいだと、両親を責めるような気持ちが膨らんでいく。


その怒りに任せてクルミはライターをつけた。


カシュッ!


かすかな音と、不発だったときの香りがトイレの中に広がっていく。


もう一度。


カシュッカシュッ。


何度やってみてもライターに火はつかず、かすかな閃光が飛ぶばかりだ。


次第にクルミの目に涙のまくが浮かんできた。


カシュッカシュッ。


つかないライターの音が、いつまでもトイレの中から聞こえてきていたのだった。