食事が終わると少しの休憩時間が挟まれる。


平日、家の中で唯一誰にも監視されない時間だ。


だけどこの時間が終わればまた勉強が始まる。


勉強が始まればクルミのとなりには有名大学の家庭教師が張り付き、家の中ですら自由にる歩くことができなくなってしまうのだ。


クルミはこの貴重な数十分を使うため、ポケットの中にあのライターを隠し持っていた。


道路に捨てられていて、汚い100円ライター。


コンビニに行けば誰だって手に入れることのできる、安っぽい商品。


だけどクルミはこれすら自分の意思で購入することはできない。


どれだけブランド品を買い与えられても、それは父親や母親が選んで買ってきたものなのだ。


クルミの意思はその中に反映されていない。


クルミはポケットの中に手を突っ込んでライターの感触を確かめながらトイレに向かった。


この家のトイレは無駄に豪華で広い。


子供の頃はこれが当たり前だと思っていたが、学校に行くようになり、個室の存在を知ってからは家のトイレなのに落ちつかない気分になっていた。


クルミは3畳ほどあるトイレの真ん中にトイレットペーパーを丸めて置いた。


くしゃくしゃのトイレットペーパーがトイレの床にある様子はどこか滑稽で少し笑ってしまう。


けれどすぐに顔を引き締めてライターを取り出した。