雨が早く止んで季節は進み、明日から夏休みになろうとしていた。明人の気持ちは未だに上がりっぱなしで、それにもうずっと錯乱状態のままとうとうこんな夏を迎えてしまっていた。

明人と水樹。二人には自転車があるから、行動範囲が広がってどんな遠くの場所にだって行けるような気がした。

「今日さ、俺の家の方面で夏祭りがあるんだ。行ってみる?」

「ほんと?そういえば家の近くも小さいけれどこの週末に夜店が出るみたいです。」

また自転車を走らせ明人と水樹は軽快に進む。7月も半分が終わる頃、明人の気まぐれに火が付いて恋人同士のように毎日そばにいた。

明人の人生から想像すると考えられない。誰かがそばにいても迷惑じゃない。面倒臭くない。むしろ明人の方こそもっと水樹と一緒にいたくて、明人にとってこんな気持ちは本当に初めてで、水樹が笑うと何故だか胸が苦しくなった。

わかっている事は一つだけ。また明日も会いたいと言う事。

「子供達も多いね。」

「規模があまり大きめではないからですかね?でも凄く楽しい。こういう夏の雰囲気大好きです。」

水樹はまた笑う。水樹が笑うと嬉しくて苦しくて、明人は毎日ずっと変な気持ちだった。

「もう少し歩こう。」

そうして水樹の手を握り、また歩き出す。暑いから手に汗をかいてしまうけれど、そんな時は大抵水樹の方から、‘汗、掻いてきたんで手を離していいですか。’と申し出る。

明人は思う。変な女だ。ほんとに面白い。言う事やる事全てが新鮮で、水樹が次に何をしでかすのか楽しみでワクワクして目が離せない。そしてそれは自分にも当てはまり、毎日自分の発見が面白い。自分は手を繋ぐタイプだったのか、なんていうのもその一つだ。

ただ、水樹は明人の全てを受け入れるけれど、何かを求めたり言葉を欲しがったりはなくて、だから二人は未だに友達という肩書のままだったりする。明人は、水樹が自分の事を好きそうには感じてはしまうし、だから何か理由があるのかな、と勘ぐってしまう。それに明人自身もどうしたいのかがはっきりとはわからない。

それでもただ今この瞬間も、隣にいる水樹の横顔を愛おしく思っているのだった。