緊張が緩和へと変化していく。

「なんだ、そっか・・・。」

「すみません、すぐに長谷川さんに確認しなくて・・・。」

「うん。わかるよ。そういうの自信がないとなかなか出来ないよね。ごめんね、不安にさせて。」

「全然っ、全然ですっ。聞いて安心しました。何か失態をして、嫌われたのかと思ってたんです。それであの、今日は何て書いてくれてたのか、今教えて貰えたりするんですか?」

「えっ?」

明人はフッと笑って答えた。

「なんだっけ?はは、忘れた。うーん、立花さんがずっと前ソフトボールについて書いてあった時に、消しゴムで消した箇所があったでしょ?その内容を教えてくれたら、思い出せそうな気がするな。」

他の事はすぐ忘れるのに、明人はこんな細かい事を覚えている。それにもうレポート用紙も失ってしまったのだから、今聞かないと忘れてしまいそうな気もした。

「あれ?そうでしたっけ?普通に忘れちゃいました。なんだっけな、うーん・・・。」

「そらそうだよね。残念。」

「なんて嘘ですっ。ソフトする長谷川さんかっこいいって書いたような気がしますっ。」

「なっ・・・。」

かっこいいなんて言われた事無い。でも水樹はありのままにそう言ってくれる。でも素直過ぎてリアクションに困る。

普通はこんな恥ずかしい事は言わない。凄いな負けるよ、と明人はまいってしまう。

「そろそろ帰らないと。」

「はい・・・。」

そして明人は、‘一緒に帰りませんか。’そうレポート用紙に書いた時よりも勇気を使わずに言った。

「明日もここで待ってて。」

明人の脈は速くなっている。水樹も頷きつつ、返事をした。

「はい・・・。」

学校では一緒にいる所を見られて水樹が困る事があるかもしれないし、明人自身も誰にも干渉されたくなくて、二人は学校とは別の場所で待ち合わせして会える日は毎日会い、別れる時には次の約束をわざわざしてまで一緒にいた。携帯電話の扱いが雑な明人にとっては、このアナログな約束の仕方が面白かった。

でも明人と水樹は友達同士だ。明人には水樹の気持ちはわからない。このままだとまた平行線のままかもしれない。つまり、二人がもう一段階進んだ関係になる為には、例えばいわゆる触媒のような物がやっぱり必要だった。