けれど勇利は聖也のようにはうまく出来ないしするつもりもない。実際に別れた仁美とは友達には戻れていないのだった。

「まあ水樹もいい線いってるよ。久々に会ったけどさ、妙に色っぽく艶っぽくなってるし。もしかしてやっと男できた?」

「えっ!?」

と声を出すとガタガチャ、ガタンとコップが倒れた。聖也の冷やかしに動揺でもしたのだろうか。ただそれは水樹の音ではなかった。

「あっ。」

こぼしたのはこの話に関係ないはずの瞬介だった。

「羽柴お前何やってんだよっ。あっ・・・。」

「いや、別に、ははは・・・。」

聖也は敏感に察すると瞬介に同情した。

「おい羽柴・・・。被害者の会は京都にあるからな。必要になれば京都に来いよわかったか?」

「わからないけどわかったっす。すんませんおしぼり貰ってきます。」

瞬介が席を外すと続いて水樹もトイレと言い残して離席した。

「おい勇利。どうなってんだよ。」

「何がだよ知らないよ。」

「なんかもっと単純でいいのに、お前ら皆ごちゃごちゃしてんなあ。そりゃ水樹も疲れて親離れ、勇利離れもするわな。」

「おしぼり貰ってきました。」

瞬介が戻ると続いて水樹も戻り、そしてすぐさま臆することなく純粋な瞬介が問いかけた。

「水樹ちゃん彼氏・・・いるの?」

「ううん。今はまだいない・・・。それに今まで一度も彼氏いた事ないですからねっ、正木さんっ。」

「あっはっは。だってさ聖也君。水樹ちゃん超怒ってるよ。ね、もうこの話やめない?」

勇利が空気を変えてからは話は受験の話になった。

「うん。俺は2県隣の大学が本命だよ。まあ一人暮らしにはなるよね。それから合格したら、北海道の農場で短期バイトするんだあ。ほんと楽しみだよ。」

「勇利さん勉強頑張って下さいね。バイトいいですね。」

「へー。なんか水樹あっさりしてんな。いよいよオムツ離れじゃね?」

「もおっ。正木さんさっきから。そんなんだと関西の女の子に ‘めっちゃ嫌いやねん。’って言われちゃいますよ。」

今日はそれぞれにとって楽しい一日で良い息抜きになり最後まで爆笑の中一同は解散した。勇利と瞬介は電車が同じ方面で聖也とは反対、そして水樹は自転車だった。勇利は瞬介とその流れのまま主に受験やハンドの話をした。瞬介も来年受験で、地元に戻る予定だ。

少しづつ、自分の世界が広がっていく。そして勇利は今のこの関係性で満足していると再認識した。

ただ、あの場にいた馬鹿な男達は馬鹿な話をし過ぎて見事に聞き流していた。水樹が彼氏について、‘今はまだいない。’ と意味ありげな言い回しをしていた事は聖也のエセ関西弁の影に隠されてしまったのだった。