ソフトボールの試合の夜、水樹はベッドに仰向けになって寝転がっていた。

‘立花さんがいたからソフトボール参加したんだよ・・・。’

仰向けになり、うつ伏せになり、また仰向けになり、頭と体をぐるぐる回転させる。自分は一体どうしたというのだろうか。明人の言葉がいつまでも繰り返された。そして起き上がり机に座ると、いつもの宝箱の缶を開けて勇利から貰った入部届の切れ端を取り出した。

‘目指せ全国日本一!一緒に夢を追いかけたい!by勇利’

何度眺めても、クスッと微笑まずにはいられない。昔から勇利はチャーミングで、用紙の裏側に書かれているこの一文を水樹はこの3年間、穴が開く程見つめてきた。

勇利さん・・・。こんなにずっと大事に持っていて、勇利さんにばれたら気持ち悪いって言われてしまうね。と水樹は自分でも自覚はあるのだった。そしてシャープペンシルで空きスペースに勇利の絵を描いて更には台詞を書き足した。

‘こら水樹。今誰の事考えてたんだよ!’

そして自分で描いておきながら、照れつつも返事をした。

「こら宇野勇利っ。いつまでも放っておくとどうかなっても知らないよっ。」

ただ、これはさすがに恥ずかし過ぎた。そして、はあとため息を付いた。

その時だった。振動する携帯電話にあっと慌て、それからうまく掴めずに電話を手の中で踊らせ回転させた。

「もしもしもしもし。私です立花です珍しいですねどうしたんですか。」

「電話出るの早っ。しかももしもし何回言うの!超うける。まさか俺の事考えてたんじゃないだろうなー。」

「えっ、えっ、えっ!?そ、そんなわけないですっ。」

「あはは。何慌ててんの。冗談だよ。あのさ、ゴールデンウィークの交流戦にさ、聖也君が京都から戻ってくるらしくてさ、皆で晩飯行こうって聖也君から連絡来てさ。」

「ほんとですか!?正木さん久しぶりですね。」

「焼き肉でいいよね?4、5年とOBで行くから、お前は4年の人数確認して、全員の人数決まったら駅近くの店予約しといて。」

「はい。わかりました。楽しみですね。」

「あ、お前はただの予約係で留守番だからね。」

「え!?・・・そんな・・・。」

「ひゃひゃひゃ。ばーか、嘘だよ。じゃ頼むね。」

酷いなあもう、と思いつつも水樹はフワフワした甘い気持ちになる。

「勇利さんっ。」

「ぷっ。何?いきなりでっかい声出して。」

「あ、すみません。あは、勇利さん勉強・・・頑張って下さいねっ。」

「うん・・・。さんきゅ。」

電話を切り、しばらく放心した。勇利からの凄いタイミングの電話に水樹はまた心が揺れ戻されたのだった。