瞬介と礼に目撃されたのも知らずに、洗い場ではまだ明人と水樹が話を続けていた。

「どうしたのそれ。もしかして・・・。」

「はい。スライディングした時地面が悪かったみたいで・・・。やっちゃいました。」

ある程度の事ならばもう驚かないとは言え、やんちゃ、違う、じゃじゃ馬、違う、おてんばさん、これだ、と明人は妙に満足した。

「何やってるの怪我までして。早く手当てすれば良かったじゃん。全く、どうしてそこまでするんだよ。」

「うーん、かっこいい所、見せたかったから、ですかね。」

「何に?」

「うーん・・・。長谷川さんです。」

「え!?」

水樹は無防備に笑い、そしてこんなに真正面からぶち込んでこられるとは思ってもいなくて、明人は恥ずかしくなってしまった。

「参加してくれて本当にありがとうございました。でも長谷川さん、無理矢理参加してくれたのに、アドバイスもくれたのに、逆転までしてくれたのに、最後の最後で踏ん張れなくて本当にすみませんでした。」

「そんな大袈裟だよ。」

「他の女の子達みたいに、大人しくベンチで応援しておけば良かったですね。出しゃばっておせっかいして、本当恥ずかしいです私。」

明人は掛けてあげられる上手な言葉を考えたがとっさには生み出せず、黙るだけになった。

「グローブ、そこに置いておいて下さい。」

「うん。ありがとう。ま、そんな気にする事ないんじゃない。俺楽しかったよ。」

「ははは。気まで使ってもらって、なんかありがとうございます。」

明人はグラブを水樹の鞄のそばに置くと、‘じゃね。’と言ってくるりと背中を向けた。そして思った。

良いグラブだよ。ポケットの部分もボールの形が固定されていて保管状態も良いのだろうな。

明人は水樹の真面目な一面をここに見た気がした。