そして瞬介は同じクラブの女子の水樹からサヨナラ打を打ったので、仲間に非情やら悪魔やら英雄やら散々言われてしまい、ただ、自分はそんなに器用じゃないからこれはこれで正解なんだと瞬介は自分なりに納得していた。それでも瞬介はなんだか独りになりたかった。

それから水樹達のA組側は、ゲームセットして直ぐに水樹の元へ皆が集まった。

「あいつきれいに打ったね。まじやられたー。」

「あいつ体が小さいからさ、俺らちょっと前に守っちゃったんだよね。ごめんな立花。」

「立花落ち込んでる?負けたのは俺らのせいだから気にするなよ。」

サヨナラ打を打たれた水樹は、本当は空が頭に落ちてきそうな程にショックを受けていたが、皆に物凄く気を使われているのがわかると心配掛けないように明るく振る舞った。

「ほんと甘く入ったよー。ツーストライクまで追い込んだから一瞬勝利がちらついちゃってね、欲が出ちゃった。ほんとごめんね。」

「立花欲しがっちゃったんだね。」

「今のは打ったあいつを褒めるべきです。」

「それ解説者がよく言うやつじゃん。」

そしてその場に笑いが起こるとあはは、と水樹も意味がわからなかったけれど皆に合わせてとりあえず笑っておいた。

「水樹ちゃんお疲れ様。負けて残念だね。元気出してね。でも僕超楽しかったよ。逆転に次ぐ逆転でハラハラドキドキしたし。」

「それはほんとにほんとだね。クラス史上歴史に残る名勝負かも。それにこんなに自分に熱い気持ちになれたのは中学の時以来で、私も胸がドキドキしてる。」

水樹達はベンチに戻り女子の友達にも労ってもらうと負けたけれど皆でもっと盛り上がった。

「皆超カッコよかったよー。」

「感動したよーお疲れ様っ。」

「また今日の打ち上げ行こうねー。」

うらやま・・・。

そこには負けたA組と、それを眺めるD組の男達がいた。瞬介達D組は、いわゆる試合には勝ち、結局何かに負けたような敗北感を抱き、でも今日の勝利を喜びながらA組と挨拶と次の闘いの約束をして、そして好きなタイミングで各々教室に戻り始めた。

「長谷川さん行きましょうよ。」

「おー。」

それでも水樹と明人は一度も言葉を交わす事はなかった。そして離れていく明人の背中を見つめ、はあ、とこっそりとため息を付くと水樹はしゅんとした。