「あっくん…
ようちゃんをその窓から突き落とした犯人ってーーー」

壊れていた記憶のパズルが、音を立てて枠にはまっていく。

目の前に立つ敦の虚ろな瞳を見つめ、月子は記憶を繋いだ。




薄暗くなった廊下を走る、ふたつの小さな影。

必要以上に追いかけてくるその男は、やはり田畑。

逃げるふたりに向かい、何か叫んでいる。

しかし、今はそれを聞いている暇はない。

逃げなければならないのだ。

「ようちゃん、もうだめだよ…
ふたりで走ってたら追いつかれちゃうよ…」

階段を、半分まで駆け上がった踊場。

月子のそんな泣き言が、陽子の背後から聞こえてくる。

「2階に上がれば、かくれる所があるはず。
もう少しだから走って!」



無我夢中で走った小さな心臓が、はちきれそうだったのを覚えている。

自分と同じ、小さな手を握りしめて走った廊下。

月子の手を引っ張ってーーー



そう、
月子の手を引いて先を走っていたのは、…わたし。




過去が、どんどんはっきりしてくる。

走った廊下。

握りしめた、相手の掌。

あの時、誰から逃げていたのかも。



「わたしが、
陽子だった……の…?」




「正解。」

目の前に立つ敦が、ゆっくりと頷く。

やっとの思いで、過去の記憶を取り戻すことができた陽子を、静かに見つめる悲しげな敦の瞳。

「そんな……
じゃぁ、あの時その窓から落ちたのはーーー」


「月子だよ。」

敦はそう言うと、フッと短く息をもらしたのだった。



陽子が、必死に捜し求めていた答え。

それは、最初からかけ違えていたのだ。

何もかも、すべて。