優しく告げる、その声。

だが、何故か平坦にその文字達を連ねただけに感じる。

しかしそれに気付く余裕もなく、月子はただ呆然と宙を見ていた。


グルグルと、月子の頭をかき乱す敦の言葉。

これが、本当に10年前起こった事件の真実だというのか。


陽子を殺したのは、田畑でも何でもなく、月子本人…

田畑は、月子が現実から逃れるための作り上げた偶像だったと。



毎夜うなされていた、陽子を突き落とすあの夢。

あれが、
10年間、月子の求めていた真実ーーー



語られた敦の言葉は、あまりにも残酷なもので、月子はなすすべもなく、その場に崩れ落ちてしまった。



「……でも…、
でも…わたし本当に見たのよ…
その窓から、ようちゃんを突き落とす姿を…」

恐怖にかすれる月子の声は、敦に届いたのだろうか。

気付けば溢れ出す涙が、その頬をどんどん濡らしていった。

ぼやける視界はとめどなく、そんな瞳に敦の姿を映しながら、月子はもう一度切に告げる。

敦の言葉も、月子自身がいだくぬぐい去れない不安もすべて否定するように、

目の前で窓際に立つ、その敦の姿を見つめながら。



「そんな風に、窓際に立って、
ようちゃんを落とそうとする人の姿を……」


まるで、デシャヴのようだった。

窓際に立つ敦の姿。

涙でぼやけていたが、はっきりと重なる。



10年前見た、犯人の姿にーーー