映った顔は生気が無く、青白く見える。

不意にあげそうになった声を、月子はぐっと堪えた。


「なぁ、月子…
この10年間ずっと聞きたかったんだけどさ、
10年前のあの日、ここに田畑って本当にいたの?」

「………」

今まで聞いたことのない、敦の声色。

突然告げられた敦の質問の意味が理解できず、月子は戸惑いを隠せなかった。


「俺さ、本当の事言うと、何も見てないんだよね。
月子がここにいたっていう、田畑の姿を……」

見つめる瞳は、月子に何を言おうとしているのか。

その意図が掴めず、ただ心臓が激しく打ち付ける。

「……あっくん、
それ、どういう意味…?」

やっと絞り出した声は虚しく空気を震わし、月子の耳にかすれて響く。


「10年前に警察にした田畑がいたっていう俺の証言は、月子、お前にあわせただけだよ。

俺がここに来た時には、月子ただひとりだった。

そして、あの時隣の教室にいたけど、ふたりが走っていく音だけしか俺は聞いていない。

これが、どういう意味かわかるか?」


ひとつひとつ、言葉を区切りながら話す敦は、駄々をこねる子どもをゆっくり諭しているようにも見える。

その語られる答えが怖くて、月子は頭を振るばかりだった。


「田畑が、運動場から逃げたって言ったのは嘘。
ただ月子を守りたくて、俺、今まで嘘ついてたんだ。」


ふたりっきりの音楽室。

窓から落ちた、陽子…


「誰だって、一目見たらピンとくるよ。
誰が、陽子をこの窓から突き落としたかってね。」

激しく打つ心臓の音が、体いっぱいに広がる。

その音をふさぎきれず、月子は立ち尽くす事しかできなかった。



「俺の月子への気持ち、わかってるだろう?」

やんわりと、微笑む敦。


「この事は、決して誰にも言わない。
陽子を殺した犯人が、月子、お前だったって事………」