所持金は、千円札が２枚と小銭が少し。

カード類は一枚もなく、免許証らしきものがポケットに挿さっていた。

緊張感で、一気に胸が高鳴る。

早く確認すべきだと、麻美の中で誰かが告げた。




｢………田畑…智弘。｣

麻美を見据える、田畑の顔写真。


｢この人が、田畑？｣

８年前に、更新が切れてしまった免許証。

そこに写っていた田畑は、麻美が想像していたような子どもを襲う変質者の顔つきではなかった。

少しえらの張った、面長な顔。

切れ長の瞳。

その目尻が、誰かを想像させる。


他に何か手がかりがないかと、麻美は急いでボストンバックに手を伸ばした。

ほんのわずかの衣類に混じり、大事そうにしまわれた封筒。

中には、数枚の手紙と写真が入っていた。

神経質そうな小さな文字で、びっしりとその想いが綴られている。



｢これ…？！｣



その中身を確認した瞬間、
麻美の後頭部に、鋭い激痛が走った。


｢ーーッ！｣




霞む視界に瞳を歪め、麻美は何もできずにその場に倒れ込んでいった。