ツー、ツー、ツー……


虚しく響く音。

細く整えられた眉をしかめ、麻美は膨れ面を作った。

「悪さって、ガキじゃないんだから……」


あっかんべーと、傍にいない隆之に向かって舌を出す。

そのままパチンと大きな音を立てて、携帯を乱暴に閉じた。


「戻ればいいんでしょ、戻れば…」



鼻息荒くもと来た道を戻り、理科室を出ようとした瞬間、麻美の目に小さな黒い影が入った。


それは、教室の片隅。

まるで人目を避けるように、隠して置いてあるようにも見えた。


小首を傾げ、近付く。

あっ、と小さな声が麻美の口からもれた。



1泊か2泊くらい出来そうな、小さな黒のボストンバック。

使い古されて持ち手の所がだいぶよれており、半分まで開けられたファスナーの間から男物の財布がのぞいている。

そのボストンバックの傍には先程まで誰かが居たように、食べた後のゴミが散乱していた。

サンドイッチやおにぎりの包装紙、ビールの空き缶に、お酒のあてやら。

恐る恐るそれをつまみ上げると、麻美はその賞味期限を確認した。

どれもこれも、1週間程前に切れている。

言いようのない不思議な感覚に襲われ、麻美はまたボストンバッグに目を移した。


手にした財布。

ふたつに折られたそれも、ボストンバックと同様にかなりの年季が入っているように見えた。


恐る恐る、中を確認する麻美。