2階は締め切られていたせいか、ツンとした黴臭さが鼻をつく。

麻美は小さく、その眉をしかめた。


1階に比べまだ陽が射し込んでくるので目の前が明るく見えるが、ただ、1階に比べたら、と言うだけでその薄暗さはさほど変わらなかった。


麻美は、以前自分が通っていた校舎の風景と照らし合わせながら足を進めていく。

その歩きづらさに少し違和感を覚えながら、麻美はゆっくりと進んだ。


上がってすぐに使われていない教室が目に入ったが、麻美は迷わず音楽室を目指した。

陽子が突き落とされた、その場所へーー

ーー惹きつけられていくように。



音楽室のひとつ前。

ここは、昨日ふたりが話していた理科室だろうか。

少し剥げた文字で「理科室」と書かれたプレートが、頼りなげにさげられている。

開け放たれた後部の扉から、機材の無いカラッポの教室の中がよく見えた。


体は目の前にした音楽室へと向かっていたのだが、ふと前を見る麻美の視界の端に理科室の中央に立つ大柱が微かに映る。

惹かれる音楽室に麻美は一瞬迷ったが、きびすを返すと理科室の中へと踏み入った。



中央に立つ大柱を挟んで、流しが備え付けてある机が左右に3つづつ並んでおり、その各机に唯一ガスバーナーだけが忘れられたように残されている。

前方に目を向けると、同じ形の古びた教卓が置かれており、

そんな寂れた教室を見守るように、所々破れた暗幕ががだかつく窓の両サイドから手を伸ばすように、ダラリと垂れ下がっていた。


麻美が、理科室で足を止めた理由。

それは、その大柱から見上げた理科室の教室の天井がやけに明るく、キラキラと輝いて見えたからだ。

暗幕の間から射し込む陽の光が、その大柱に当たり天井へと光を逃がしている。

天井に映るプリズムに目を細め、麻美はゆっくりと奥へと回り込んだ。


「鏡……」