当時、月子が通っていた小学校は、麻美の住むマンションからさほど離れていない場所にあった。
小さく感じられる、運動場に立つ月子。
以前、校舎として使われていたプレハブを見上げる視線は、やはりどこか悲しげに見える。
卒業して以来なのだろうか。
閉じられたままの記憶が、今開かれようとしている。
その背中を敦が何も言わず、ただ、ジッと見つめていたのだった。
月子とマンションを出る時、隆之はひとり何かを考えるようにベランダでその蒼く染まった空を見上げていた。
麻美が、敦と3人で小学校を覗いてくると告げると、「あぁ」とぼんやり頷く隆之。
ついて行ってやれないけど大丈夫か、と言葉を繋げた。
「あにき…?」
麻美はその表情が胸にふと引っかかり、思わず声をかける。
表情をくもらせたまま、隆之は続けた。
「悪いな、麻美。
まだ調べたい事あって、これから人と会う約束をしているんだ。
オレ、思い出してね。
溝呂木って卒業生が、確か月子ちゃん達と同じ学区内だった事。
電話で聞いたら、10年前の事覚えてるって言ってたから……
敦君がいるなら安心だろうけど、終わったらそっちに向かうよ。」
そう言うと、隆之はいつものように麻美の頭を優しく撫でた。
「大丈夫!
何かあったら、あにきの携帯に連絡入れるし。
心配しないで。」
頭に添えられた隆之の大きな手のひらの温もりを感じながら、麻美はにっこりと笑った。