「あのね、
この後、あっくんと一緒にあの小学校に行ってみようと思うんだ。」

月子はそう言って、静かにフォークを置いた。

そんな真剣な月子の表情を見つめ、麻美も静かに頷いた。



「わたし、
あの時の記憶がいまいちはっきりしないの。」


俯く視線は、何を見つめているのだろうか。

とらわれた過去の記憶に、麻美は月子を思いやった。

「仕方ないよ。
目の前でお姉さんが亡くなったんだから。」

ウン、と月子は小さく頷く。


「でも、わたし真実が知りたいの。」

「真実?」


「ようちゃんが死んでしまった本当の理由を。
どういう目的で、なぜ殺されてしまったのか……

今でも田畑がわたしを狙っているのなら、その理由が必ずあるはず。
バラバラになった過去の記憶を、取り戻したいんだ。
たとえそれが、受け入れがたい真実だとしても……」


強く宿る月子の視線に、何故だか麻美は隆之を重ねていた。

深いその色は、何かしらの過去を清算しようとする強い気持ちの表れ。


そんな月子に、麻美はゆっくりと続けた。



「ツラくない?」

少し間を置いた月子は、小さく頭を横に振った。

「あっくんが、傍にいてくれるから……」


生まれてから、離れることなく陽子と過ごしてきた月子。

何者にも代え難い、その月子の半身がいた居場所に、今は敦がいる。

繋がれた敦との絆。

月子の前から去った陽子に代わりに、その10年間を埋めていくものだったのだろう。




「わたしも、ついて行ってもいい?」


少し躊躇いながらそう聞いた麻美に、月子は優しく微笑む。

「…うん。」



月子の黒髪に降りそそぐ、柔らかな朝の光。

麻美は瞳を細め、その儚げな月子の姿を焼き付けた。