「お母さん、貴方にはそれくらいの覚悟がありますか? 自分の人生を棒に振ってでも、海里を助けたいという気持ちがありますか? そういう気持ちがないなら、今すぐ帰ってください。貴方に海里はやれません。学費も払えなければ家も見つかってないくせに、会いに来ないでください。俺はてっきりそれくらい準備してから来ると思い込んでました。本気で海里とやり直したいと思っているなら、それくらい易々とやってのけると思っていました。だからわざわざフードコートにいる時間を教えたのに、まさかまだ家すらも見つかってないなんて、本当にがっかりです」
 肩を落として、心の底から落胆した様子で零次は言う。

 母さんは大粒の涙を流した。

「……その通りね。零次くんの言う通りだわ。私、馬鹿ね本当に。まさか会う機会を作ってもらえると思ってなかったからって浮かれて、まだ一緒に暮らすための準備も何一つできてないのに、やり直そうなんていっちゃって……」

「か、母さん」

「今まで本当にごめんなさい、海里。助けないで、あんなに苦しめて、本当にごめんなさい。あんな酷いことをしたのに今更やり直したいだなんて、おこがましいにもほどがあるわよね……。それに、零次くんの言う通り一緒に暮らすための準備もろくにできてないんじゃ、うんなんていうハズもないわよね。本当にごめんなさい」
 涙で化粧した顔をボロボロにしながら、母さんは言う。
 俺はこうして謝ってくれることをどれだけ待っていたんだろう。
 どれだけ、母さんからの愛を求めていたんだろう。

 ――遅い。あまりに遅すぎる。

 今更やり直したいなんて、ごめんなさいなんて言われて、受け入れられるわけがない。そう思っているのに、心のどこかに愛されててよかったと思っている自分がいた。

 母さんに謝罪されて、とても嬉しく思っている自分がいた。

「お母さん、何もかも謝って済むのなら、この世に犯罪者なんていません。お母さんがしたことは、犯罪じゃないです。でも、お母さんは海里の気持ちを、確かに踏みにじったんですよ」

 零次の言う通りだ。
 俺は母さんに大事にされなかった。たった一人の息子なのに。

「そうね。本当にごめんなさい。私に海里とやり直したいなんて言う資格ないわよね。でもそう分かっていても、言わずにはいられなかったの。我儘よね、私。……海里、愛してるわ」