「もちろんよ! そのことを話したくてここに来たの。海里の苗字は、井島から瀬戸になったのよ。私とおんなじ。井島なのはあの人だけ。あの家は離婚をした日に売って、買い取り手も見つかったの。家を売ったお金はあの人と折半したわ。それでね海里、私、今そのお金で生活が出来そうなアパートの一室とかを探してるんだけど、よかったらそれが見つかったらまた一緒に暮らさない? 今すぐには無理だけど、お金がたまったらまた学校にも通わせてあげるから。私、海里とやり直したいの」

「俺は一緒に暮らしたくない。零次といる」
 俺は零次のTシャツの裾をぎゅうっと握りしめた。

「零次くんといて、どうするの? 家賃は? 生活費は? 私があげたお金が尽きても居候する気なの?」

「それは……っ!」
 返す言葉が見つからず、俺は押し黙る。

「俺はそれでいいです。こいつが俺といたいと思ってくれてるなら、居候でいい。家賃も生活費も請求しません」
 俺の背中を撫でながら、零次は言う。

「何を言ってるの零次くん。そんなの馬鹿げてるわ」
 母さんは眉間に皺を寄せて、零次を見た。

「それでも俺が払います。学費も、家賃も生活費も全部俺が払います。俺がコイツを養います」
「零次くん、そんなことが本当にできると思ってるの?」
「できるかどうかじゃなくて、そうでもして暮らしたいという意思があるかどうかが大事なんじゃないですか。……俺は貴方みたいに学費を払えないなんて絶対言わない。俺がコイツを幸せにします」

 零次は防寒具の内ポケットからお年玉袋を取り出して、テーブルの上に置いた。

「……これは?」
 お年玉袋を見て、母さんは首を傾げる。
「……ここに、俺のキャッシュカードが入ってます。暗証番号は海里のスマフォから連絡します。なので、そこから学費を払ってください」
「いくら入ってるの?」

「百万です」
 予想外の額に驚いて、俺は目を瞠る。

「零次くん、正気なの?」
 母さんが零次を見て、震えた声で尋ねる。

「正気ですよ。俺は海里を幸せにしたいだけです。そのためなら何でもするつもりです。貴方みたいに、助けるのが遅いなんて絶対言われない。最高の同居人に俺はなります」
「……れっ、零次」
 なんでこんなことまでするんだよ。
 それに百万なんて、一体どこで手に入れたんだ。