「くっ、来んな! 人の幸せ壊しといて、のこのこ会いに来んじゃねぇよ!」
 震えながら俺は叫ぶ。

 叫んだ瞬間、テラスにいた人がみんな俺と母さんを見た。人が少ない分、よく声が響いたらしい。

「海里、落ち着け! 俺が呼んだんだ」
 慌てた様子でテラスの出入り口から零次が出てきて、俺のそばに来る。
「零次が呼んだ?……まさか、一昨日か?」
「ああ、そうだ。お前は会いたくないって言ってたけど、俺はそれでも会った方がいいと思ったから、今日のお昼頃にホームセンターに来るように伝えたんだ」

「じゃあ服装とかの連絡はしてなかったのか? それでなんで会えたんだよ」
「確かに服装の連絡はしなかったけど、俺が白髪なのは伝えたから。フードコートにいる白髪の高校生くらいの男だってわかってれば、だいぶ絞られるだろ」
「余計な世話焼くな!」
「それがお前の本音か? 本当に何も話したくないのか?」
 俺の肩に手を置き、しっかりと俺の目を見つめて零次は言う。
「……話したくない。話したいことなんてない」
「海里、本当にいいのか?」
「いい。話さなくて」

 母さんがトレイをテーブルの上に置いて、俺に近づいてくる。
 母さんが俺の目の前に来て、俺の手をしっかりと握りしめる。

「お願い海里。少しだけ話を聞いて」
 俺は何も言わず、母さんの手を振りほどいた。
「海里、話だけでも聞いてやれよ」
 零次が俺の肩を掴んで言う。

「お前はどっちの味方なんだよ!」
 俺がいつ、母さんに会いたいなんて言ったんだ!!

「お前の味方だよ! 海里の味方に決まってんだろ? じゃなきゃ呼ばねぇ!」
 零次が声を荒げて、俺の肩を必死で揺さぶる。

 俺は自分の肩から零次の手をどかすと、何も言わずに席の方に戻って、ベンチに腰を下ろした。

「……ありがとう」

 母さんは俺を見てそう言ってから、向かいのベンチに腰を下ろした。

「はぁ……」

 零次がため息をついて俺の隣に腰を下ろす。
「あのね海里、私あの人と離婚して、家を売ったの」
「父さんは、離婚に反対しなかったの?」
「反対されたわ。でも説得したの。あの人、変なこと言ってたわ。お金を引き落としたのは海里を連れ戻すためだ。お前ならわかってくれるだろうとか。頭可笑しいわよね」
「うん」
 どうやら、父さんは相変わらず変なことばっか言っているらしい。
「俺の親権者は、母さんだよね?」