「ん。俺は明太マヨにしようかなぁ。それで二人で食べ合いでもしようぜ」
「する!」
 食べ合いなんてしたことないから思わず気分が高揚して、俺は声を上げて頷いた。

「ククっ。じゃあ俺注文してくるから、海里席選んでて。テラスと普通のテーブル席とあるから、好きなとこ選んで座って待ってていいよ。それで席決まったら俺にどこらへんか連絡して」
 零次はそう言って、喉を鳴らして笑ってから、たこ焼きの列に並ぼうとした。
 列は十人ほど並んでて、注文するだけでもだいぶ時間がかかりそうだった。

「注文だけなら、俺するけど?」
「いいから、選んで来い。テラス、見に行きたいんだろ?」
 思わず頬が赤くなる。
 ――図星だ。
 本当はテラス席でご飯を食べたことなんてないから、興味がわいてた。

「俺をごまかせると思うなよ? ほら、行った行った」
 零次はそう言うと、俺を後ろから押して、テラスの入り口の前に追いやった。

「れっ、零次!」
「早くドア開けないと、後ろつっかえるぞ?」
 軽口を叩いて、零次は笑う。
「……ありがと」
 俺は零次に向かって小さな声で礼を言うと、入り口のドアを開けてテラスの中に入った。

 テラスには鉄製の丸いテーブルの周りにこれまた鉄製の椅子が二つか四つ置かれたのと、長い木製のテーブルの両隣に、これまた長いベンチが置かれたのの二種類の席があった。

 席は平日だからか、二人だけで長い机のを使っても、誰にも文句を言われなそうなくらいに空いていた。
 一分ほど迷ってから、俺はテラスの真ん中らへんの長い机と、長いベンチがあるところに行って、ベンチの端に座った。
 ラインで零次に席の場所を教えると、十分もしないうちに、誰かが俺のいる席に無言で近づいてきた。

 零次が来たのかと思って俺は顔を上げた。顔を上げたその瞬間、俺は固まった。人形みたいに。
 俺の目の前にいたのは、なんと母さんだった。
 母さんは割り箸と紙皿の上にたこ焼きが乗ったトレイを持っていた。

「は? か、母さん? なんでいんの?」
 そう言うのに、およそ三分を要したと思う。それくらい俺は動揺していた。
 母さんはそんな俺を見て、今にも泣きそうな顔をして笑った。

「か、海里、あのね……」

 母さんがゆっくり、俺に近づいてくる。俺は慌てて立ち上がって、母さんと距離をとるかのように後ろに下がった。