「は? お前何言いだしてんだよ?」
阿古羅の肩を揺さぶって、俺は叫ぶ。
まさか、母親の代わりに学費を払って、俺の退学を阻止するつもりなのか……?
『それは可能だけれど……まさか零次くん、君本当に私にお金を渡すつもりじゃないわよね?』
「いえ、渡します。近いうちに」
阿古羅の服の襟を、服が破けるかのような勢いで掴む。
阿古羅が顔を顰めながら、ゆっくりと通話を切る。
「お前、正気か? 自分が今何て言ったかわかってるのかっ⁉」
声が枯れる勢いで俺は叫んだ。
「ああ、わかってる。俺はお前が自殺をしようとしたあの日、お前を救うって言った。退学もなんとかするって言った。だから俺がお前の学費を払う」
俺の問いに、阿古羅はやけに冷静に言葉を返した。
「は?……お前、変だよ。意味わかんない」
服の襟から手を離して、弱々しい声で言う。
「俺は変じゃねぇ!! 正常だよ! お前の環境に本気で怒って、本気で我慢ならないと思ったから、自殺も防いだし、学費も払うって言ったんだよ! 俺がお前の人生を変えてやるよ!」
間を数秒も作らないでそう叫ぶと、阿古羅は俺の背中を優しく撫でた。
「うっ、う……」
涙が零れる。
信じていいのだろうか。
虐待をされているところで出会ったのも、俺が自殺を選択して、阿古羅がそれを止めたのも全部父さんに仕組まれたことじゃなくて、全部コイツの本心でやったことだと思っていいのだろうか。
あまりに漫画じみたその展開を、父さんの作為でできたものだと考えなくて、いいのだろうか。
そう思いたい。
そう信じたい。
「ありがとう」
涙を拭いながら、俺は礼を言った。
「ああ! じゃあ母親に連絡して、いつなら金受け取れるか聞いてみてくれるか?」
俺は首を振って、阿古羅から離れた。
「俺じゃなくて、阿古羅がそれ聞いて。それで、……俺にいつどこで母親と会うとかも言わなくていいから、一人で金渡しに行って」
「え?」
「俺、まだ、母さんと会う勇気でない」
俺は阿古羅の手からスマフォを奪い取ると、それのロックを解除してから、もう一度阿古羅に渡した。
「……海里、本当にそれでいいのか?」
受け取ったスマフォと俺を交互に見つめて、阿古羅は言う。
「いい」
「たぶんいつまで経っても、そんな勇気なんてでないぞ。それでもいいのか?」
「……いい」
「わかった」
阿古羅はしぶしぶといった様子で、母さんにラインを送った。