ごめん、阿古羅。

 俺は結局、何色にも染まれなかった。猫のように気まぐれに、自由になんて生きれなかったよ。
 約束守れなくて、勝手にこんな選択して本当にごめん。でももう、本当に無理なんだ。こんなクソみたいな世界で生きるの。

 俺は涙を拭うと、ぬいぐるみを鞄の中に入れて、二階にある母さんの部屋に行った。

「なんで、どうしてあいつを助けたんだ!」
 母さんの部屋から父さんの声が聞こえてきた。
「あの子を愛しているからよ!」
「ふざけるな! 俺はお前と幸せな家庭を築くために、海里を殺そうとしたんだぞ? それなのにおまえは、俺を裏切るっていうのかっ!?」

 は?

 父さんが虐待をして借金を返そうとしてたのは、母さんとの幸せな家庭を築くためだったのか?
「私はそれを受け入れたつもりはないわよ!」
「じゃあなんであいつの虐待を見て見ぬ振りしてたんだ」
「怖かったのよ。海里を庇ったら、貴方が私に借金を払うように言ってくるんじゃないかと思ってたの。プライドが高い貴方は、お義父さんには意地でも頼らないと思ったから」
 お義父さんと言うのは、たぶん借金の保証人をしているじいちゃんのことだろう。
「へえ。俺はお前を愛してたから、死亡保険の契約を海里だけにしたり、記念日にデートに行ったりしてたのに、お前はそんな風に考えてたのか。そんなに俺を信頼してなかったのか!!」
「実の息子にあんな暴力を振るう人を、信頼できるわけないでしょ!」

 なんだこれ。

 母さんは死亡保険に入っていないのか? 俺しか保険に入っていないのか? でも確かに父さんは、前に家族みんな保険に入ってるって言ってたハズだ。……ああ、嘘なのか。父さんは俺を騙したのか。俺に母さんが好きなのを知られたら、その恋心を利用して復讐をされる可能性があると思って。
 それはまた随分と酷い話だな。

 じゃあなんだ。つまり俺は、虐待が悪化したあの日からずっと、父さんに騙されていたのか?
 そして母さんが俺を庇わなかったのは、父さんの代わりに借金を払うことになるのを懸念してたからなのか? 

 じゃあ俺は金に負けたのか?

 母さんは借金を払わないためだけに、俺の虐待を見て見ぬ振りしたのか? それにも関わらず、父さんに俺を愛してるって言ったのか? 
「ハハハハ」
 酷すぎて思わずから笑いが漏れた。