領地に住むのは、人間よりも動物が多かったのかもしれない。
 祖父の領地に住む人達は、高齢な人達ばかりだった。
「おまえの父と同じで、若い者は都会に行きたがるのだろう」
 と祖父は言った。
 だが、人が少ないのはクリスにとっては好都合であった。
 自分の身体の秘密について、バレる必要がなかった。
 日中、外で出歩いても怒られることはなかった。
 夜は絶対に、家に引きこもる。
 それだけで良かったのだ。

 引っ越して、2ヵ月が経った頃。
 クリスの家の近くで見知らぬ人達を目撃するようになった。
 引っ越し当初は、住む予定の家が完成していなかった為、祖父の家でクリス一家は暮らしていた。
 時折、自分が暮らす予定の家を祖父と一緒に見に行っていた。

 都会から呼び寄せた腕よりの大工さん達が急ピッチで家を作っている。
 その家の近くで、見知らぬ人達を目撃するようになった。
 明らかに大工さんではない。
 それに、建築予定の家の隣の建物に、見知らぬ者達は吸い込まれて行った。
 クリスの家の近くには、何件かの空き家がある。

「誰かが住んでいるのかな?」
 クリスが祖父に尋ねた。
 祖父は、じっと隣の家を見た。
「アームストロング家じゃろ」
「…誰それ?」
「あの家と後ろの山はアームストロングの領地なんだよ」
「え!? 全部、おじいちゃんの領地じゃなかったの?」
 クリスにとっては初耳だった。
 ここら一体、全部が祖父の領地だとばかり思っていたからだ。

「儂が若い頃、国王にこの土地を与えられた際、アームストロングにも土地を与えられたんだがのう、あいつはこの土地が気に喰わないといって放ったらかしにしよった」
「えー、じゃあ。おじいちゃんがその人の土地を貰ったの?」
「いやあ。書類上は悪魔でもアームストロング家の土地になっておるが、実際に土地の面倒を見ているのは儂じゃからな」
「?」
 祖父の言っていることの意味がわからず、クリスは首を傾げる。

 背の高い祖父は、クリスを見下ろした。
「セレ坊は昔、アームストロングの小童(こわっぱ)と遊んでいたことがあるはずだぞ」
「こわっぱって何?」
「覚えてないのかのう? セレ坊と同い年だったかのう…」