両親が好きなことや仕事に打ち込んでいる間、
 クリスの面倒を見てくれたのは祖父だった。
 クリスの祖母はクリスが生まれる前に亡くなってしまっていたので、
 祖父は一人、大きな屋敷で暮らしていた。

 クリスは引っ越してから、
 初めてズボンを履いた。
 ずっとスカートを着てきた自分にとって不思議な感覚だった。

「男として生きるからには、強くならなきゃいかん」
 祖父は、クリスに剣術を教えるようになった。

 毎日が新鮮で楽しい毎日だった。
 念願だったズボンを履いて、剣術を習う日々。
 両親は最初、クリスを見て腫れものを扱うような感じであったが。
 祖父は「男として接しろ」と両親に対して厳しく𠮟った。
 そのうち、心の整理が出来たのか、クリスを男の子として見るようになった。
 ただ、母はどうしても納得できない部分があるのか、
 寝間着は絶対にコレを着てくれ。と言って。
 ピンク色のパジャマを渡してきた。
 クリスは嫌だったが、我慢してパジャマを着た。

 きっと、自分の両親は受け入れない部分が沢山あったのだろうと思う。
 だが、衝突するたびに祖父が間に入ってクリスの好きなことを受け入れてくれたのだ。

 祖父は9人兄弟の五男坊だったので、親から与えられたものは何一つなく、
 独り、厳しい世の中を過ごしたという。
「学校なんて行かずに剣や武術の勉強をしとったかなあ」
 木刀を与えられ、クリスは剣術に熱中していた。
 こんなに剣術にのめり込むとは、自分でも驚いていた。
「セレ坊は儂に似たんだろうな。センスがある」
 と褒めてくれた。