ティルレット王国に四季というものはない。
 年中、18~20度という暖かな気温で。
 雨が日中に降るということがなかった。
 雨が降るとしても、夜ということが多く、ザーザーと降り注ぐだけで。
 雷雨なんてものは一年に一度あるか否かといったところだった。

 クリスの家に雷が落ちたというのは、後になって知ったことだ。
 クリスが誕生日の夜、神様に男の子になりたいと祈った後、
 家に雷が落ちた。
 近所の人達の話によると、クリスの家全体がピカッと光ったそうだ。
 ドンっバリバリバリと嫌な音がしたが、
 家のものは何一つ壊れていなかった。
 だが、両親がクリスの様子を見に行くと。
 クリスは窓を開けっぱなしのまま倒れていたという。
 母は悲鳴をあげ、クリスを起こしたが目を覚まさない。
 その日のうちに病院に運ばれたクリスは、身体に変化が起きていることに気づいた。

 自分の願いが叶ったと喜んだのは、ほんの1分間だけだった。
「バケモンの身体になった」と医者に言われたからだ。
 両親は相当なショックを受けたらしい。
 色々と検査を受けたが、原因がわからず退院を余儀なくされ、
 家に帰った。

 クリスは家を出ることを許されなかった。
 クリスは雷に打たれて、病気になったという噂が流れた。
 お見舞いに来たいという友達がいたそうだが、母はそれをすべて断った。
 毎日のように、母は泣きじゃくるし父はクリスと顔を合わせないようになった。

 人と対面することを拒まれたクリスは、
 願いが叶ったのに、どうしてこんなに苦しいのだろうと思った。
 それに、神様はどういうわけか全部を叶えることはなかった。
 中途半端な魔法をかけていったのだ。
 日中は男の姿になり、夜になると女の姿になる。
 女の姿でいる間、髪の毛を短く切っても翌日の夜にはまた伸びている。
 よくわからない…とクリスは思った。