首都から少し離れた、住宅街にクリスの家族は住んでいた。
 クリスが生まれ育った家は、親戚の土地に建てられており、
 借家で築30年以上は経過している平屋だった。

 クリスの祖父は男爵で、若い頃。
 国に対して多大なる業績を残したそうで、
 そのご褒美として国王から、領地を与えられた。
 ただ、その領地は広いのだがあまりにも田舎だったので。
 クリスの父は「不便だ」と文句を言って、首都のほうへ出てきた。

 クリスの祖父は厳しい人間で、「貴族だからって甘やかすわけにはいかん」と言って。
 息子に与えたのは、生活に必要な最低限の賃金だけだった。
 夜な夜な遊び回る貴族とは違って、
 クリスの父は友人の会社で働いていた。

 クリスの母は、服を作るのが大好きな女性だった。
 平民出身で、小さい頃は親に服を買ってもらえなかったので。
 それが原因で、自分で服を作るようになったのだという。

 生まれた時から、あらゆる服を着せられて生活してきたクリスはうんざりとしながら毎日を送っていた。
 母は次から次へと服を着るように指示してくる。
 着せ替え人形扱いされることに嫌気がさしてくる。

 近所に住む、同年代の女の子たちがクリスの服を見て「可愛い」と褒めてくれる。
 それを近くで聞いていたクリスの母は嬉しくなって、更に服を作りたがる。
 ヒラヒラとした服を着ることが嫌になった。
 何より、何故毎日スカートを履かなきゃいけないのか理解が出来ない。

 ズボンを履きたいと言うと。
 クリスの母は怒った。
「セレーナ。貴女はせっかく女の子として生まれて、こんなに可愛く生まれて、一体何が不満なの?」
 クリスの本名はセレーナ。
 女の子として生まれ、7歳になるまで母親のいいなりになり。
 フリフリの服を着て生きてきた。