島に来て、2日目。
 今日はひたすら、森の中を突き進むという。
 昨日に比べれば、吐き気はおさまって一人で歩けるぐらいにまで回復したのだが、
 歩けば歩くほど、呼吸するのが苦しくなっていく。
 標高が高いはずないのに、酸素が薄くない? と思うくらいゼーゼーと呼吸が乱れる。

 歩き始めは平地だったはずが、
 どんどんと足場が悪くなってくる。
 岩がゴロゴロと落ちている所や、泥でぬかるんでいるような所。
 かと思えば、急な坂道を登り始めたかと思えば道のない薮の中を突き進む。

 先頭に立つのは蘭で、
 地図を見ながら迷いなく、すいすいと進む。
 その後ろには鼻歌を歌いながら楽しそうに突き進む渚くん。
 皆が背負っている3倍はあろうかと思うくらい大きなリュックを背負ったシュロさんが続いていく。
 シュロさんの後ろをサクラ、そしてサクラの後ろを私。
 一番最後に歩くのはクリスさんだった。

 考えてみたら、私以外は騎士団なわけで。
 小さい頃から鍛えているのだから体力の差は言わなくてもわかる。
 一年、ライト先生と山登りなんかして訓練したところで、
 基礎が備わっている騎士団の彼らとは比べてはいけないに…決まっている。

 だんだん、嫌気がさしてきた。
 休憩時間だって15分ほどなわけで。
 歯が砕けそうなくらい硬いクッキーを食べ、水を口にすると。
「おい、行くぞっ」
 とすぐに、蘭が立ち上がった。

 鍛えている上に、
 蘭と言う男は本当にせっかちな男なわけで。
 だんだんムカついてきた。
 もう願い事なんてどうだっていいから。
 私は一緒に行くべきじゃなかった…と思えてきた。

 ずんずんと進んで行く蘭を見ているうちに、本気でムカついてくる。
 呼吸が上手くできなくて、一人だけゼーゼーと息を切らしていると。
 同じように、ゼーゼーと言っている人間がいるのに気づいた。

 最初のほうは、「余裕だわ」という表情で歩いていたのに。
 急にサクラの表情が曇ってきた。
 私と同じようにゼーゼーと呼吸を乱して。
 途中で止まることが増えた。
 サクラに「大丈夫?」と言いたかったけど。
 自分もそれどころじゃなくて、
 そのうち、私とサクラは立ち止まって。
 喋ることも出来ないくらい息を乱していた。

 後ろで、黙って見ていたクリスさんは。
 私とサクラを追い抜かすと、

「蘭、今日はこの辺で休みにしようよ」

 と大声をあげる。

「まだ、日が暮れてないだろうが」
 大声で蘭がクリスさんに近づいてくる。
「ごめん、俺。さっき足くじいちゃったみたいでさ。今無理すると後が大変だから…」
 申し訳なさそうにクリスさんが言うと、
 蘭は黙ってクリスさんを見た。
 クリスさんの足元を確認した後、
 後ろでゼーゼー言っている私とサクラを眺めた。

「・・・ここらへんで休めるところ探すか」