渚くんの話を聞いていて、具合が悪化している気がした。
実際、お母さんが目の前で処刑された話を聞いたとき、
耐え切れず、嘔吐してしまった。
具合が悪いのに、渚くんは話を止めてくれなかった。
見た目は幼くて、小悪魔的に可愛らしい渚くんの抱えている過去があまりにも悲惨で。
聴くのが凄く辛かった。
屋敷で暮らしていたときは、渚くんの過去を知りたいと好奇心で思っていたけど。
聴いてしまうと、知らなきゃ良かったと後悔する。
話だけでこんなに具合が悪くなるというのに、
渚くんはそんな過酷な出来事を実際に経験して乗り越えてきたから本当に凄い。
私の悩みなんて、たいしたことないと思った。
哀しくて、吐き気がして。
涙が出てくる。
「あ、そろそろ。島に到着するかな」
こっちには目もくれずに、渚くんが言った。
普段の渚くんだったら、「カレン、大丈夫?」と言って本気で心配してくれるはずなのに。
目の前で吐いたのにも関わらず、渚くんは私を無視して話し続けた。
鼻が詰まった状態で、ふぅぅとため息をついた。
船酔いしているので、感覚がおかしいのかもしれないが。
さっきから、すっごく船が揺れている気がするのは気のせいだろうか?
遠くから、ゴゴゴゴゴという地響きのような音も聞こえてくる。
渚くんは私を見ずに、操縦席から離れてドアを開けた。
「みんなー、そろそろ到着するから中入ってー」
渚くんが大声を出すと、
皆が荷物を持ってゾロゾロと操縦室に入ってきた。
操縦室は狭いので、6人全員が入ると手狭になる。
サクラと目が合うと、ぷっと笑われた。
「もう、人間の顔色してないわよ」
こんなに具合が悪いというのに、笑われるなんて…。
だけど、言い返す気力がなかった。
代わりに、蘭が
「具合悪いんだから、仕方ないだろうが」
と大声で怒鳴った。
「もう少しの辛抱だ。我慢してくれとしか言えない」
申し訳なさそうに、蘭が言った。
いつもならば、蘭が冷酷で周りの人が優しいのに。
今回は逆なので変な気分だった。
だが、もう極限まで具合が悪すぎて、どうでもいいと思った。
吐きたいのか、吐きたくないのかわからず。
咳き込みながら、バケツを抱えて前を見る。
ゴゴゴゴという地鳴りが近づいてくるかと思えば、
目の前に滝が見える。
「えっ、滝?」
さっきまで、大海原だったはずなのに。
突然、目の前に滝が現れたのだから、驚くしかなかった。
「え、海でいきなり滝?」
オロオロするが、皆は無視をしてじっと前を見ている。
船は、大きく揺れながら滝へと直進していく。
「え、渚くん。滝のほう向かってない?」
「大丈夫。ここ通らないと島に着かないから」
「…うそでしょ」
だが、渚くんは迷いなく滝へと船を進めて行った。
死に行くようなものじゃないか。
「無理だってー」
思わず、絶叫して目を閉じた。