「身分が高いものというのは、秘密ごとや謎が付きものなのだよ」
 昔、お兄様が笑って言っていた。
 私には、さっぱり理解出来ない言葉だったけど。
 結婚してみて、ようやくその言葉の意味がわかった。

 どんなに疑問に思っても。
 どんなに首を傾げて質問しても。
 その考えは「駄目!」と言って払いのけられてしまう。

 ただ。
 教えられた情報を頼りに考えると。
 夫である蘭は、跡取り騒動で命を狙われていて。
 蘭のお兄さんであるローズが跡取り決定になったにも関わらず。
 蘭という存在自体が邪魔だと言われ、死ぬまで命を狙われる運命だという。

 決着をつけるために、私は一年間、安全な所で避難しろっていう意味なんだと思うけど。
 どうして、ライト先生と兄妹(きょうだい)という設定で児童養護施設で働くのかが意味わかんない。
 ただでさえ、人見知りだし。
 この外見からしたら、子供たちにはホラーでしかない。
 施設で暮らし始めた頃は、誰も話しかけてくれなかった。
 せっかくライト先生が考えてくれたクララという名前ではなく、
 子供たちは延々と「バケモノ」と呼んでくる。
 自分が醜い人間だってことは、頭でわかってはいるけど。
 傷つくのだ。
 毎日、バケモノと呼ばれ。
 洗濯物を干していれば「バケモノ、消えろ」と石を投げられる。
 泣いてばかり。
 こんなところ、早くいなくなりたいって毎日思った。

 毎朝、早く起床して。
 朝食の準備に後片付け。皿洗い。
 それが終われば洗濯物を洗って、干して。
 施設の掃除をして・・・。

 ライト先生と言えば、この施設に住みながら。
 医者として子供たちの健康管理を任され、
 時に、近くの村まで往診に出かける。
 そんな生活サイクル。
「いつまで、ここに居なきゃいけないんですか?」
 と先生に質問すると。
「迎えに来るまで」
 と言われた。

 普段、会話することのないライト先生だけれど。
 週に1~2度。
 山登りに付き合わされた。
「君は体力がなさすぎる。このままじゃ、ここで生活は出来ない」
 ただ、ひたすら黙々と。
 急斜面を登らされるのも、また苦痛だった。

 精神的苦痛を与えられ、肉体的苦痛を与えられ。
 何なの、この毎日と思って。
 でも、考える暇もないくらい疲労困憊して。
 気づけば、一年が経っていた。