一緒に車に乗り込むと。
 暗闇の中を車は走行する。
「仕事は簡単なことなんだ。ある人から近況を聞き出してほしいんだ」
「きんきょう?」
「今、どういうふうに生活しているのか、とか何を食べているのかとか、そんな感じ」
「僕じゃなくても、出来るんじゃ…」
「いやあ…それがちょっとね」
 険しい顔をするアズマに、どんな人物なのかと一気に恐怖を感じる。
「あ、ただ。危ない人ではないことだけは確かだから。渚さんと同い年で。聴取時間は一時間くらい。出来るだけ相手のことを聞き出してほしいんだ」
「本当に危険じゃないんですか?」
 嫌な予感がする。

 車は迷うことなく、すいすいと進んで行く。
 暗くて、わからないけど。
 学校から出たのは明確にわかった。

 車は加速して。
 どんどん進んで行ったかと思うと。
 急に、減速してノロノロと走り出す。
 渚の嫌な予感は続いた。
 何で、アズマさんはこんなことを自分に頼むのだろうか?

 やがて、車が止まった。
 車を降りて建物に入っていく。
 アズマは立ち止まる。
「このドアの先にいる人と話してほしい」
「…本当に大丈夫なんですか?」
 急だったので、寝間着姿だし武器も家に置いてきてしまっている。
「大丈夫。さあ、中へ」
 アズマがドアをノックした後、半ば強引に渚は中へ押し込められた。
 いきなり襲撃されたらどうしようと、構えたが。
 何も起こらず、窓の近くに人影がぽつんと見えた。
 シルエットからして、女性だ。
「…どちら様ですか?」
 声は、若い女の子の声だった。
 微かに、声が震えていた。
 相手からは敵意を感じ取れない。
 安心した渚は、女の子に近寄る。
「あ・・・」
 脅えるように見つめる女の子を見て、渚はまさかと思った。
 女の子も、渚を見て「えっ」と言って後ろに下がった。

 目の前には、ナンそっくりの女の子が立っていたからだ。
「ナン・・・?」
「嘘でしょ・・・マリク?」
 ナンはテーブルにあった燭台を持ってこっちに近寄った。
「…本物?」
「そっちこそ、幽霊じゃないよね?」
 ナンはじっと渚を見つめた後、燭台をテーブルに置いて、
「マリク!」
 飛び跳ねるように、渚に抱き着いた。