青年騎士団に入団して10ヵ月。
渚にとっては、平凡な毎日だった。
少年騎士団の過酷な毎日はどこへ行ってしまったのだろう?
皆、優しくて。
親切で。
自分の未来はどこへ向かっているのだろうという考えが頭にあった。
このまま、学校を卒業して。
正式に騎士団になって。
どこかに配属されて。
自分は敵と戦うのか?
いつのまにか、未来に関して渚は恐怖を覚えるようになった。
考えるほど、自分の人生はちっぽけだと涙が出てくる。
誰にも相談できず、寝る前に泣いた。
こんなこと誰に相談すればいいのかわからなかった。
その日も、訳もなく声を殺して泣いた後。
気づけば眠りについていた。
ふと、誰かに呼ばれているような気がする。
「渚さん、渚さん」
自分のことを、さん付けするのはアズマしかいない。
出会った頃は「渚様」と言うので、それだけは勘弁してほしいと言った。
自分は偉くもないのだから…と。
パチリと目を覚ました渚は起き上がって辺りを見回すが、アズマの姿はない。
夢かな? と思っていると。
部屋中にシュロのいびきが響き渡っていた。
いつも、いびきが大きいシュロだが、今日は特にうるさい。
「うっさいなあ」
と幸せそうに眠るシュロを睨みつけて。
渚は、そっと部屋を出た。
喉がカラカラだったので、水を飲もうと下へ降りる。
廊下にアズマの姿はなかった。
ダイニングルームを見ると、誰かが椅子に座って頭を抱えていた。
アズマだ。
「アズマさん、どうしたの?」
渚が声をかけると、アズマは立ち上がって、
「よかった。渚さん。助けてくれない?」
と切羽詰まった状態で話しかけてくる。
「どうしたの?」
「上司に頼み事をされてしまったんだけど。僕じゃ無理なんだ。渚さん、助けてほしい」
「上司?」
アズマさんの上司って誰だろうと渚は考える。
「そんな難しい仕事じゃないんだ。今すぐ、一緒に来てくれる?」
「え…、僕、出来るかな?」
不安げに渚が言う。
「渚さんじゃないと無理なんだ、…言葉とか」
がっちりとアズマさんが渚の両肩を掴んだ。
深刻そうなので、渚は頷いた。