蘭と伯爵が1階に戻って来た後。
 伯爵と夫人は学長に会いに行くと言った。
 2人が車に乗り込み、アズマの運転する車が去っていくのを見送って。
 家に戻ろうとした時、蘭が大声で言った。
「俺の母親、何か言ってたか?」
「え!? 特には・・・」
 渚はクリスを見た。
 クリスは、にっこりと笑って
「綺麗なお母さんだね」
 とお世辞を言う。
 蘭はちっと舌打ちして。
「俺が渚に似てるとでも言ったんだろ」
 と吐き捨てるように言った。

 …名家の養子だとはいえ、お金持ちなのに。
 どうして幸せそうじゃないのだろうと渚は思った。
 蘭と両親の距離感は他人のようだった。

「蘭は蘭で苦しいのかな」
 先に部屋に戻って行った蘭を確かめて。
 渚はクリスに言った。
「名家だからって幸せだとは限らないのかもしれないね」
 大人びた口調でクリスが言う。
 蘭に、本当のお母さんのことを尋ねたら絶対に怒るだろう。
 謎に包まれた蘭の秘密を一つだけ知った気がした。