一週間後、蘭の両親がやって来た。
 サクラは「絶対に会いたくない」と言い、
 シュロは「馬鹿なのがバレる」とサクラに取り押さえられて2人はどこかへ行ってしまった。

 残された渚とクリスがスペンサー伯爵と夫人を案内することになった。
 案内すると言っても、ダイニングルームと蘭の部屋だけだ。
 挨拶をして、ダイニングルームを見せると、「自分の部屋はこっちです」と言って。
 蘭と伯爵は2階に上がってゆく。
 てっきり、夫人も2階に上がるのかと思っていたのに、夫人は立ち止まったままだ。
「母親が部屋を覗くのは嫌みたいなのよ」
 と説明してきたので、「そうなんですか」と渚が言った。

 スペンサー伯爵も、夫人も蘭の言う通り似ていなかった。
 そもそも、蘭は海の一族の血を引いているのであろうから、
 純粋なティルレット人である夫妻に似ているわけがない。
 蘭の説明がなければ、「何で!?」と渚は顔に出してしまったかもしれない。

 スペンサー伯爵はバッキバキのマッチョだった。
 大柄ではないが、体格から見て強そうだというのがわかる。
 険しい目で見てくるので、厳しい人なのかなあと感じた。
 一方、夫人は、見たまんま貴族だなと思った。
 騎士団学校に似合わないフリフリのドレスを纏い、
 髪はクルクルと巻かれ、キッチリ化粧のされた顔を見て、異次元の人間に思えた。

「あなた、海の一族なのでしょう?」
「え!?」
 いきなり夫人が渚に向かって声をかけたので。
 渚はビックリして隣にいたクリスの腕をぎゅっとつかんでしまった。
 夫人は持っていた扇子をパタパタと仰ぐ。
「御覧の通り、あの子も」
「…?」
 渚は首を傾げた。
「…あの子の本当の母親は海の一族だそうですわ。だから、もしかしたら貴方と蘭は親戚なのかもしれませんね」
「…え」
 夫人の言葉に渚はどう答えていいのかわからなかった。
 ただ、後々考えてみたが。
 絶対に蘭とは親戚ではないと思った。