蘭がルームメイトになって一ヵ月が経った頃。
事件は起きた。
「俺の両親が此処に来るから」
一人が好きなくせに、どういうわけか夕食と朝食は一緒に食事をする蘭の姿勢は変わらなかった。
夕飯時にいきなり蘭が言うので、サクラは「ぎゃー」と悲鳴をあげた。
「蘭の両親って…スペンサー伯爵よね?」
サクラの顔がどんどん青ざめていく。
「は? 決まってるだろ」
蘭が眉間に皺を寄せてサクラに言った。
渚は、噂のスペンサー伯爵が此処へ来るのかと思うと嫌な気持ちになった。
「俺の両親は過保護だからな。息子がどんなところで生活しているか知りたいらしい」
「…別に離れて暮らしてるわけじゃないのにね」
サクラは青ざめながら言った。
蘭は、週の半分は家族一緒の家で過ごし、それ以外の日は此処で生活している。
「だから、過保護だって言ってるだろ」
蘭はため息をついた。
どんよりとした空気が一気に流れ、
シュロの咀嚼音だけが響いた。
シュロは話に興味がないらしく、がつがつ食べている。
「両親が来る前に言っておくけど、俺は養子だ」
蘭の告白に、一同は凍り付いた。
「だから、俺は両親に全く似てない。そこを念頭に入れて接してほしい」
蘭は立ち上がった。
「絶対に似てないって、顔に出すなよ。いいな!」
それだけ言うと蘭は部屋から出て行ってしまった。
蘭を追うようにアズマも出て行ってしまう。
「…なるほどね」
何がなるほどなんだろうと渚は思いながら、サクラを見た。