蘭はクラスで孤立していた。
 委員長が気を利かせて、話しかけたが。
「あ、大丈夫なんで」
 とバッサリと蘭は委員長の気遣いを断った。

 一匹狼で行動する蘭は、一人でいることが苦ではないようだった。
 ただ、渚は気づいたことがあった。
 蘭は、騎士団に向いているのか? という疑問だった。
 武術、剣術に関しては正直、ポンコツだった。
 誤って怪我をするのではないかと思うほど、身体の動きがぎこちない。
 だが、先生が一度だって蘭を怒ることはなかった。

 家にいても、蘭は「俺に近寄るな」と言って一人になりたがった。
 なのに、食事の時間は皆と一緒なのが、不思議であった。

「意味わかんないわ。蘭って」
 困ったようにサクラが言った。
 当初は顔を真っ赤にして、あれだけ怒っていたくせに。
 慣れてくると、あまり悪口を言わなくなった。

 蘭が来てから、家で出される食事が一気に豪華になった。
 ボッソボソのパンか、塩味のスープ。時折、果物が付いてくるだけだったのに。
 ふっかふかの柔らかなパン、色鮮やかなスープ。
 上質な肉、食べたことのない果物。
 何より渚が泣いて喜んだのは、焼魚だった。
 海沿いで暮らしていた時は、食べ過ぎて飽きていた魚だったけど。
 何年も口にしていなかった魚を食べた瞬間、涙が溢れた。
「蘭は性格、ひん曲がっているかもしれないけど。アズマさんは良い人ね」
 食後に出されたのは、マンゴーという食べ物だった。
 初めて食べる果物に、渚はビビって「シュロ、先に食べて」と言った。
 渚の真意を知る由もないシュロは「おう」と言ってマンゴーを口にする。
「うまいぞ、これ」
 シュロに変化がないことを確認した渚とサクラは、
 すぐさまマンゴーに手を出した。

「貴族の護衛係って厳しい人ばかりかと思ってたけど、アズマさんは違うね」
 クリスはマンゴーに手をつけていない。
「おう、アズマさんは良い奴だぞ。珍しい食材を持ってきてくれるしな」
「僕、他の人の護衛係ってどんな人なのか知らないなー」
 渚が言うと、サクラは一気に表情を変えた。
「渚、気を付けたほうがいいわ。世の中、アズマさんみたいな護衛係ばかりとは限らないんだから」
「そうなの?」
「たまに学校の前で、貴族の護衛係が迎えに来ていることがあるんだけど。凄い態度悪いわよ」
「あ、あの人相(にんそう)悪い奴らって護衛係なのか?」
 もぐもぐと口を動かしてシュロが言った。
 クリスは「何だと思ってたの、その人達のこと」と言って苦笑する。

 そうなのか…と渚は呟いた。
 ただ、いくら親切だからって心を許すのは気を付けたほうがいいんだろうなと渚は思う。
 痛い目に遭うだけだ。
 ゆるーく付き合うだけで充分。