その日は、いつものように漁をサボって。
 渚は岩場で寝っ転がっていた。
 心地よい暖かさに思わずウトウトしかけていると。
「こらー」という声がしたので、思わず飛び跳ねた。
 見ると、ナンが立っている。
「また、仕事サボったでしょ。お姉さんたち怒ってたよ」
「サボってたんじゃないよ。休んでいただけ」
 ナンを睨みつけると。
 ナンは渚の隣に座った。
「マリクは本当に自由だよね」
 急に疲れたような声でナンが言うので、渚は驚いた。
 両親に置いていかれ、一人で生活しているナンを尊敬しつつも、
 許嫁としてどう接していいのかわからなくなっていた時期だった。
「10年後、20年後、どうなってんのかなあ」
「急に何だよ」
 ナンが大きな目でこっちを見つめる。
 あと数年経てば、この女は自分の嫁になる。
 それが、どうしても頭で理解出来ない。
 2人きりになると、気まずくて、渚は立ち上がった。
 が、ふと潮風に混ざった異臭に気づいた。
「…なんか、焦げ臭くないか?」
「えー、またオババが何か燃やしてんのかなあ」
 オババは本業である、祈祷をする際、色んなものを燃やす。
 枝や葉っぱだけじゃなく、神に捧げるものとして魚も燃やす。
 ナンはのんきに、オババのせいじゃないかと言うが。
 渚は嫌な胸騒ぎがした。
「ここから村まで結構離れてんのに、ここまで匂うか?」
「…確かに。マリクは見つからないために此処にいるんだもんね」
 嫌味たらしくナンが言った。
「うっさい」と渚がナンに怒ったところで。
 渚とナンは、あることに気づいた…。
「あっ・・・」
 潮風と共に微かに、女性の悲鳴が聞こえたかと思えば。
 村の方から煙が出ているのが目に入った。