蘭の心臓はバクバクと大きい音が聞こえる。
 暑いわけでもないのに、汗が噴き出してくる。
 もし、カレンの身に何かあったらどうすればいいのか…

「この付近は別荘地だ。その屋敷の一つにライトとサクラだっけ? の二人の姿が目撃されてる」
「この短時間でよくわかったな」
 蘭が言うと、アハハハと高い声でローズが笑った。
「これでも、俺は国王になる男ですよ」
「…国王にしても早くないか?」
 車は静かに、一軒の屋敷の近くで停まった。
「既に家の周りは騎士団の奴らで囲ってる。あとは、突入するだけだ」
「…そうか」
「恐らく、地下にある部屋に閉じ込められてるんだろ。気配がないってことは」
「そんなことまでわかるのか、ローズは」
 世界最強と言われる兄が、家の中にいる人間の気配まで察知できるのかと知って驚きを隠せない。
 蘭の驚く顔にローズは思わずアハハハハと笑ってしまった。
 本当に弟は戦闘能力が低い。

「で、蘭はどうするんだ?」
「どうするって?」
「突入した後だよ」
 蘭は「あ…」とだけ声を漏らして固まってしまった。
「勿論、カレンを助けに行く」
「…自分の呪いのことは忘れてないよな?」
 弟がまさか行き当たりばったりではないかと思っていたが、
 反応を見る限り何も考えていないのが丸わかりだった。