「サクラさんがカレンを誘拐!? 何で、どうして、どういうこと?」


 驚いた声で蘭にしつこく質問してくるのは渚だ。
 蘭は屋敷に到着するとすぐさま、サクラの部屋を捜索した。
 綺麗に整理整頓された部屋には大量の衣服と化粧用品ばかりで手掛かりになりそうな日記や手紙は一切置いてない。
 次に蘭はクリスを問い詰めようと庭に行って大声でクリスの名前を呼んだ。

 薔薇園からひょっこりと顔を出したのはクリスと渚だった。
 一足先に愛犬であるビビが蘭の足元まで走ってきた。
 カレンが誘拐されたことを話すと、クリスは大きく目を見開いて「えっ…」と言って黙り込んだ。代わりにギャーギャーと「何で?」と訊いてくるのは渚だ。
「何か心当たりはないか? サクラが行きそうなところ」
「…ごめん、思い浮かばない」
 クリスの表情を見る限り、何も知らなそうだ。

「蘭様! お呼びです」
 ローズの側近の一人が蘭の傍に駆け寄る。
 側近を見た渚は、隣にいたクリスの腕をぎゅっと掴んだ。
「今、行く」
 本人ではなく、側近をよこしたのはローズなりの配慮なのだろうと蘭は思った。
 渚はローズを見ると異常なくらいに脅える。

 屋敷の門の前には一台の車が止まってある。
 サングラスをかけたローズが運転席に座っていた。
 蘭は助手席に座り込む。
「居場所がわかった」
 ローズはそう言うと、車を急発進させた。