国王の容態が悪化したとの知らせを受けて。
ローズと蘭は城へやって来た。
以前から国王の死は覚悟していたはずだが、いざその時が来たかと思うと。
どうすればいいのかわからなかった。
ローズは国王の手をぎゅっと握った。
「何があっても、ローズは国王だ。自慢の息子よ…」
一歩下がってぼんやりと蘭が、国王とローズを見つめている。
自分はここにいていいのだろうかと蘭は考えてしまう。
実の父親とはいえ、国王のことを父親とは思えなかった。
国王が黙ったかと思うと、国王は蘭のほうへ震える手を揚げて指さした。
「蘭、生まれてきてくれてありがとう」
国王の崩御の後、国王による遺言書が公開された。
驚くべきことに、国王の死はすぐに公表しないという一文から始まった。
国王の死は一部の人間にだけ知らされ、公にするのはローズが神殿への儀式を行った後、公表せよという…。
では、すぐにでも神殿へ行くべきかと考えるが、あと一年は準備に費やせという。国王の考えることがさっぱりわからなかったがローズと蘭は言う通りにするしかない。
元々、人前に出ることを避けてきた国王が亡くなったなんて、誰も気づかなかった。国王の素顔を知っている人物がまず少ないので、必要な時は替え玉で国王に似たような人間を王座に座らせておけば、事足りてしまう。
正式に、家臣たちにローズが国王になること、政治を仕切るのは蘭であることが発表された。決して全ての家臣に受け入れられたわけではない。
突然、現れた蘭を見て、戸惑う者も少なくはなかった。
「文句を言う奴がいたら、俺が消す!」
無理矢理、ニヤッと笑ったローズを見て蘭は「言葉を選んだほうがいい」と頭をおさえた。
ローズは城内での生活に慣れているのかもしれないが、蘭にとっては息苦しいものになりそうだと、ため息をついた。
家臣たちがいなくなった会議室で、今後のことについてローズと蘭が相談している時だった。
「失礼いたします!」
乱暴にドアを開けた騎士団の一人に、ローズは思わず「あん?」と睨みつけた。
「こちらを、蘭様に渡すようにと…」
ローズの視線に脅えながら、騎士団の男は蘭に一枚の紙を渡した。
「奥方が誘拐されました」