蘭の母親は、小さい頃から料理が得意で料理人になった。
 見た目が美しく目立つ人間なので、料理人になるのは勿体ないと周りは言った。
 だが、蘭の母親は、目立つことが嫌いだった。
 厨房に籠って、料理を作ることが一番の幸せだった。

 明るく朗らかな彼女が、リゾートホテルの支配人からオファーを受けて。
 ホテルのシェフになったのは20歳の時だった。
 貴族向けのリゾートホテルは、今まで働いていた飲食店の5倍近くの給料を貰えた。
 若くて美人というだけで、僻まれることもあったが、
 蘭の母親は気にすることなく働いた。

 運命の男性と出会ったのは、リゾートホテルで働き始めて半年後のことだった。
 相手の男性は病気の療養として、リゾートホテルに滞在することになったという。
 わずか二週間の恋物語だった。
 男性が去り、月日が流れて蘭の母親は身籠っていることに気づいた。
 一人で産む決意をしたのも束の間、
 ある男性が蘭の母親の前に現れる。
「どうか、お逃げください。奥様が旦那様と関係のあった女性を全員、排除しようとしております」
 運命の男性は、既婚者だった。
 使いの者が教えてくれた。
 自分は子供と共に殺される対象であると。